Caenerfon〜Welshpool

Monday 17th June
その日の朝は前日の沢山の泊まり客も昨日のうちに帰ったのか、ぐっと人数が減っていた。フェスの最終日のプログラムは早めに終わるので、イングランドのお客さんはその日の夜に家に帰り、月曜の朝は普通に仕事に行くのだろう。
朝食の時、宿の奥さんに「このトマトはオーヴンで焼くのですか?」ときいたら、「いいえ、グリルしてるのよ?日本ではトマトはグリルしないの?」と反対に聞かれたので「いいえ、日本じゃトマトは殆ど生で食べます」というと「そうね、グリルしたトマトはとても英国的よ。私はドイツから来たのだけど、ドイツでもトマトは生で食べる事が多かったわ」と言われてびっくり。奥さんはドイツからお嫁にきていたのだった。
そしてその日も朝食後、娘が宿の猫を追いかけ回したりしていたが、子供の嫌いな猫らしく娘の姿を見るとものすごい早さで逃げ飛んで行った。奥さんは気を利かせて「ほら、猫ちゃんよりも、ここにピアノがあるわよ、弾いてもいいのよ」と言ってくれた。私は娘が大きな声を出すので注意していたら、「子供はいつも大きな声を出すものだから、気にしないで」「彼女はいつもハッピーね、あんまり泣かない子ね」また、発つときは娘のリュックを褒めてくれ、夫が「ウチのかみさんは娘の服やバッグは大体手作りするんです」、と言ったら「あら、本当?小さな工場なのね、いっぱいつくって輸出してちょうだいね」等と言って送ってくれた。イギリスのB&Bは日本人の感覚とまるで同じこまやかな気遣いがあっていつもとてもほっとする。Middlewichでは沢山の思い出が出来た。


Middlewichの宿を10時前に出発、ウエルズに向かう。Middlewichから北ウエルズまではあまり遠くない。気が付いたらウエルズに突入していた。ウエルズらしい景色というのは、車から風景をぼんやりながめているととにかくお城旧跡が多い事。なにげなく当たり前のように名も知れぬ(?)お城の跡があるといった感じで、なんともロマンティックだ。それから不思議なウエルズ語の看板。とくにLLといった英語ではあまりない綴りがあっておまじないみたい。ちなみにLLはスラと発音するらしくLLANFAIRなどはスランフェアと読む。
これからさんざんお付き合いすることになる、ウエルズ語と英語の併記された看板
海岸線に出て素晴らしい景色に見とれているうちに、Caernerfonカナーヴォンについた。ここはプリンスオブウエルズの戴冠式が行われるというお城、カナーヴォン城が有名だ。町に入るとすぐに駐車場があったのでそこに駐車した。町に関する予備知識は全くなかったが、そこからすぐ近くにカナーヴォン城が見え、歩いて行けそうだった。海岸の港から歩きながら海を眺める。対岸にはAnglesey(島)が見える。海というよりは海峡のような所なので海の色が独特で、また対岸の景色も緑の草原が広がり海との対比は見たことがないような不思議なものだったので、感動する。

海岸を少し歩くと、城壁があった。こういう都市の作りは私は昔ドイツなどを旅行したときに初めて見たが、ウエルズの海岸で見るそれは明るくて独特の美しさだ。城壁をくぐると、こじんまりした町並みに変わり、居心地のよさそうなティールームやB&Bも見られる。お城の前の通りに出る。


絵が丁寧に書き込まれた
パブ・メシのメニューボード
とりあえずお城見学よりも先に、お昼ご飯を先に取ることにした。イギリスではうかうかしているとパブの食事時間が終わってしまう事があるからだ。お城の入り口のななめ前のパブに入る。大きなパブで、やはりサッカーの中継があった。まずは飲み物を頼み、食事を頼んだ。パブのお姉さんはにこやかでやさしかったが、食べ物がなかなか出てこない。かなりの時間待たされてしまったので、お城の見学時間が少し減ってしまった。

お城

カナーヴォン城はさすがに世界的観光地でいろんな国の人が訪れていた。入場料を払って中に入る。広大な中庭を取り囲む形で城が建てられており、全部を見て回るのはちょっと大変そうだった。大体どこから建物に入ったらいいものか。どこからでも入れそうな造り。子供の時、西洋のお城、というとこんなお城を想像したものだが、まさにそんなイメージどおりのお城。中は暗くて石段だらけだったが、娘も面白いのか怖いのか、笑いながら一生懸命ついてきた。

お城のてっぺんはこんな所
お城の一番上はどうなってるのか?子供の時の疑問を解明するためにみんなで登ってみた。案の定素晴らしい景色だが、日本のお城にもあるような鉄砲か弓矢を射る為の隙間(?)がちょっと怖かった。子供が落ちるほどの広さはないのだが、そこから物でも落とせばそのまま下まで落ちるような穴だ。娘は全然怖くないのか、へっちゃらで走り回っている。


お城のミュージアムを見て、お土産屋をひやかしてコースターを買い、地下のトイレに入って、お城を出た。また海岸を歩いてさっきの駐車場に戻り、宿をとったWelshpoolウエルシュプール目指して走りはじめる。カナーヴォンとウエルシュプールは直線で100キロメートルほどだが、ウエルズは山が多く、曲がりくねった道で、大きなMクラスの高速道路がないので、かなりの時間が掛かることが予想された。



娘とパパと岩山。娘はMiddlewichで買い求めた鳥人形を持って。
途中なんとも不思議な、そしてウエルズらしい景色の場所を通過する。ゆるやかな尾根線を描く岩山が道の両脇にいけどもいけども広がっているのだが、中にはあたかもいらなくなった瓦の捨て場所のような感じの場所もあった。これが以前TVか何かで見た、有名なウエルズのスレートの産地なのだろう。それは見渡すかぎりの黒っぽいグレーの石で、地層が重なってできたのだろうか、簡単に薄く割れるのだという。そんな石のかたまりや、バラになったものが天に届くまで積み重なっていて、一体自然にできたものやら人間が作った物やらさっぱりわからない代物だった。

そんな景色に感動をしながらも、だんだんと平凡な景色に変わり、道路の番号をみるたびにどっちの方向へ進んでいるかよくわからなくなった。こちらの道路独特の”ランドアバウト”も中継地点と現在地をしっかりみきわめないと同じ場所をぐるぐる回ってしまうハメになる。しかし、何とか夫の強い意思(?)で迷った道を切り抜け、ウエルシュプールの町に入った。古い鉄道の駅などが見え、いい感じの町だった。

しかし、宿はファームハウスでもあるので、町からまだしばらく行った所にあるらしい。宿の地図を貰っていたものの、目印や距離感などが掴めず、同じ所を右往左往し、やっと近所の目印であるお城を見つけ、さらに狭い生け垣に囲まれた狭い道をすすむとTrefnant Farm Houseの看板が見つかった。日本の田舎の観光地などでも経験があるが、「**この先」という看板をみてからが実は意外と長い道のりだったりする。そしてそれも例外ではなく、「本当にあるのかなあ」と不安になりながらも、ふっと景色が開けた時に丘の上に家が見えたときは、「あれだ!」とやっと安心することができた。ただ、建物は見えているがなかなかたどりつかない。ファームハウスというだけあって、牛舎が建っている道を登り切ると、インターネットのサイトでみたあの建物の前に出た。車を降りると、一同驚嘆。
生まれてこのかた、こんな素晴らしい景色は見たことがなかったかもしれない、というくらい本当に素晴らしい景色だった。広い視野で遠くまで見渡せるのだ。続く限り緑の丘。かすれて見えなくなるまでずっとずっとすっと緑の丘だ。これは来た甲斐があったというもの。日本では絶対に見られない景色だ。
時刻はすでに夕方の6時を回っていた。中に入るとすぐに宿の奥さんが出てきた。入り口には造花だが綺麗な花が飾ってあった。「これから夕食を取られるなら、場所をお教えします」といって宿の名刺に印刷された地図に書き込んでくれた。「ここから丘を下って行って、大体3マイルくらいですね。HorseShoesというパブですけど、子供も歓迎で、料理も美味しくてとても居心地のいいパブですから安心してくださいね」と丁寧におしえてくれた。


荷物を部屋に運び込む。階段ホールが重厚な造りだ。部屋は古い建物の為か、かなり傾いていた。家具に木片をさしこんで安定させたりしていた。だが窓から見える景色は最高だ。


その後、夕食の為にパブに向かった。高台から見える道だから、わかりやすいかと思ったが、とにかく生け垣の同じ様な景色の曲がりくねった道で、迷いそうだった。途中、キジやらウサギやら、動物がいたりもする。(帰りにはキツネに会った)

パブは街道ぞいにぽつんと建っていた。入り口が二つあって、バーなのかレストランなのかわからず、どうぜ中でつながってるだろうとバーに入ったら、あっちあっち、と中の人に言われレストランの方に入りなおした。そこでビールとコーラを頼む。夫はギネスのエキストラ・コールドというのを頼む。ギネスは本来それほど冷やさずに飲むビールだが、今回はこのよく冷やしたギネスを置いているパブが何件かあった。パブによっていろいろオキテが違うので戸惑ってたら、飲み物を頼んでから自分でそれを持ってレストランの席に写ってくれということだった。レストランにはまだだれもお客がいない。ガラスケースには甘そうな美味しそうなケーキ類が何種類も置いて在る。

ボチボチほかのお客さんも入りはじめて料理が来たと思ったら、年輩の痩せた活発そうな女性がこちらに怖い顔でよってきて早口で何か言っている。どうも車の事を言ってるらしいと思って、夫がとりあえず表に出ていった。なかなか帰ってこないので心配になったが、15分くらいして戻ってくると、どうやら車から水が落ちていて故障じゃないか?とあせってその女性がおしえてくれたらしい。で、Hertzのサービスに電話してもらい、リペアを頼んでもらったらしい。でもその後がよくわからないので、パブのお姉さんの言う事を一緒に聞いてくれと夫に言われた。もう一度言って貰ったら、ちゃんと夫の聞いたとおりだった。

こんなド田舎(スミマセン!)に車の修理、それももう夜なのに一体いつになるのかなー、それにしても本当に故障かなあ?あの水、冷房の水じゃないの〜?困ったなあ?と二人で途方に暮れていたら、パブのお姉さんが「料理暖める?とりあえず食べましょ」と笑顔で言ってくれた。水が落ちている事をおしえてくれたオバさんには名前と住所を聞いた。どうもこの人の家もファームハウスのようだ。

もう一度車に戻って様子などを見てから席に戻ると、料理がすでに暖められていた。最初はどんな所かわからず不安だったが、ウエルズ人は親切というのは本当だ。料理を食べ終わり、リペアを待つが、全く来る気配がない。バーの椅子の方に戻るが、さすがに夏至近くの空も暮れてきて、不安はつのるばかりだった。このままこの車で走り続けて大丈夫なのだろうか?このままあの人が知らせてくれなかったら、車は大変な事になっていたのか?しかし、よく整備されてるレンタカーでこんな事ってあるのだろうか?

コーヒーを入れて貰って飲んでいたらお姉さんが今度はチョコをくれた。娘は銀紙に包んであるキラキラ光るのを選んだ。その後、娘は疲れてソファで寝てしまった。

パブのお姉さんが「もう遅いしもう一度電話してみましょうね」といって、もう一度Hertzの書類を持っていって電話してくれた。親切が身にしみる。向こうで電話しているのが聞こえる。小さい娘が疲れて寝てしまったとか、10時5分とか何とかいっているらしいのが聞こえた。やたらと細かい時間指定だなあ、と思いつつ、お姉さんがこっちへきて一通り説明してくれたので、私が「10時5分ね」と言ったら「そうそう、そのとおりよ」と笑って言った。時間は10時を回り、あたりは闇になった。「本当に10時5分に来るんだろうな〜」と夫と時計を見つめていたら、10時11分くらいにリペアの車が到着。所がリペアマンはボンネットを開けてみるなり、「今日冷房使った?」と聞くので「イエス」と答えたら「ああ、それは故障じゃないよ。全く正常です。それではさようなら」と言ってとっとと帰って行った。

がちょ〜ん、というオチだったが、何事もなくて良かったなあと思う。それに町の人の親切に触れられたし、これぞ旅の醍醐味ではないか。お姉さんにお礼を言って、暗闇の田舎道を帰った。キツネの目が光って見えたりした。途中まで「この道で良かったっけ?」と不安になりながら走ったが、来たときと同じく丘の上に暖かい明かりが見えた。それを頼りにその日は帰った。ひょっとするとウエルズ人は親切というよりお節介かもしれない。


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